学校と情報教育に関する幾つかの想い Part.9
授業の中のIT技術 その後

登録日 05/08/10   更新日 05/08/10

目次

以下の文章は、 2005年8月3日から5日にかけて行われた全商主催「第53回全国商業教育研究大会」で、 「ビジネス基礎」の「外国人とのコミュニケーション」分野の一連の取り組みについて、 8月4日に、一緒に取り組んだ二人の先生と発表させていただいた時の4章からなる資料原稿のうち、 私が執筆を担当した、その第2章の部分です。 発表は第1分科会指定発表で全体としてはビジネス基礎の要素が強いものでしたが、 この第2章は、どちらかといえば、 課題研究の要素が強く出ている部分になります。
以下は、その時の文章の細部を一部書き直したものですが、内容は全く同じです。
('05/8/10)

注記 ('06/3/19)
似た様な文章が「じっきょう 商業教育資料No.72」に載っていますが、 私の原文を別の先生が書き直し自分の名前で載せたものなので「私の文章」では有りません。 例えば、私はこの取り組み自体が、 ビジネス基礎にICTを取り入れたものであり、 「おまけ」だとかいう次元の話ではないと認識しています。


(2005年8月4日のつもりで読んで下さい)

新学習指導要領により平成15年度からスタートした 「ビジネス基礎」の「外国人とのコミュニケーション」分野の授業において、 教材としてデジタルビデオを活用しよう、という試みは、 その年(平成15年)の秋から始まった。 生徒の授業に対する動機付けとして、 「駅の近くの交差点で、外国人観光客に駅までの道順を尋ねられ、 通行人である自分がそれに答える」という、 教科書に取り上げられているものと同じ設定のビデオを作成しよう、ということになり、 教員(通行人役)、ALT(外国人観光客役)、実習助手(スタッフ)の計3名が、 JR駅近くの交差点でロケを行ない、 撮影したDVテープをデジタルビデオ編集ソフトウェアで、キャプチャ、編集、 台詞の字幕を入れてビデオ教材の形に仕上げ、実際に授業に使用した。 生徒にとっては、現実味の無い教科書の上での英語の会話が、 実際にビジュアルとして展開され、また、自分達の身近な街で、 身近な人物によって交わされていることで、そのシーンに興味関心を持つことが出来、 授業の導入部分として、充分に効果が有ったと感じた。

この通称「駅前編」が好評であったため、平成16年2月には、 第2弾として、評価が高いことで全国的に有名なホテルと、 ブルドーザーで世界的に有名な製作所の協力を得て、 ロケをさせていただいた。
ホテルでは、
(1) 車で到着した外国人観光客(ALT)を玄関で出迎える。
(2) フロントで外国人観光客(同上)のチェックインの応対をする。
(3) 館内で外国人観光客(同上)に大浴場の場所を尋ねられる。
という3つのシーンのロケをさせていただいた。 この時、(1)と(2)の2つシーンでは旅館の社員研修用のテキストを参考にさせていただき、 (3)はオリジナルの台詞で行った。 また、外国人観光客の応対は、ホテルのフロント主任の方に演じていただいた。
製作所では、実際に会社で外国人訪問者の応対をされている女性社員の方も交えて、
(1) 会社を訪問した外国人(本校留学生)と名刺を交換する。
(2) 外国人(同上)に会社の説明をする。
という2つのオリジナルのシーンをロケさせていただいた。 この時には、女性社員の方の仕事上のお話や生徒へのアドバイスなども伺い、 ビデオに撮影させていただいた。
これらのDVテープも前述の「駅前編」と同様の作業を行ない、 ビデオ教材として『ビジネス基礎』の授業に活用した。

これらのことから、 『ビジネス基礎』の「外国人とのコミュニケーション」分野の授業の教材として ビデオを作成し活用することはとても有効である、ということが判ったが、 反面、ALTと打ち合わせなどをしているうちに、 教科書に書かれている台詞が、時としてばらつきが有ることも有る様である、 ということも見えて来た。 さらに、教員がビデオ教材を作成しそれを単に生徒に見せるだけではなく、 生徒に、自らシーンを考え、台詞を調べ、自ら役を演じ、 撮影したDVテープを編集してビデオ教材を制作する体験をさせてやれないだろうか、 という思いが強くなっていった。
そこで、平成16年度の3年生の課題研究の授業において、 「ビジネス英会話DVDの制作」という講座を設定したところ、 7名の生徒が取り組むことになった。 この7名の中には演劇部所属の者がおり、キャストとして大いに活躍してくれた。 また、他の生徒も、この課題に積極的に取り組んでくれた。

1年間を通して生徒が行った取り組みは、 時期が前後する部分も多く有るが、以下の通りである。

I シーンを考える
まず、生徒に、シーンとストーリーを考えさせた。 商業科の『ビジネス基礎』のための英語教材という目的から、 日常的なビジネスマナーが使われているシーンを意識させながら案を出させたが、 最終的に、以下の様なシーンが考え出された。(順不同)
(1) 自分の学校に外国人の高校生が訪れる。
(2) 社長秘書である自分に外国人から社長への電話がかかってくる(社長が居る)。
(3) 社長秘書である自分に外国人から社長への電話がかかってくる(社長不在)。
(4) 取引先の会社の外国人社員を訪れ、名刺交換をする。
(5) 観光物産店の店員である自分に外国人観光客が買い物に来る。
(6) ホテルのフロント係である自分が外国人観光客のチェックインの応対をする。
(7) 観光地の近くで外国人観光客から道を尋ねられる。

II 台本を作成する
Iで考え出された各シーンの具体的なストーリーと台本を、 ALTや英語科の教員にも協力していただき、微妙な言い回しによる意味の違いに気を付け、 英和、和英の辞書などを駆使しながら作成させた。 ストーリーに具体的な台詞を付けてゆくのは大変な作業で、 例えば、観光物産店のシーンでは和菓子を薦める設定にしたのだが、 その商品をどの様に説明したら良いのか、など、頭を悩ませる場面が多くあった。

III リハーサル
台本が完成すると、校内でリハーサルを行った。 リハーサルでは、台詞を書いた大きな紙を何枚も用意し、 スタッフ役の生徒がその紙をかわるがわる出演者に見える様に持ちながら行った。 リハーサルでの不自然な点や疑問点は、その都度、全員で議論しながら修正し、 仕上げていった。

IV 本番
リハーサルで内容のチェックを終えると、本番を行った。 (5)の観光物産店のシーンは地元の観光物産館、 (6)のホテルのチェックインのシーンは地元の老舗ホテルの協力をいただき、 ロケをさせていただいた。観光物産館では、出演者が本校卒業生から接客指導を受ける、 という一幕もあった。 また、(7)の観光地の近くで道を尋ねられるシーンでは、 観光地近くの遊歩道でロケを行った。
どのシーンも、完成したビデオにすれば数十秒の短いシーンであるが、 何度もカメラワークを変えて撮影し、NGも多くあって、かなりの時間とテープを要した。 しかし、生徒にとっては、最も緊張し、また、最も楽しい時間であった様である。

V ビデオ編集
撮影が終わったDVテープの映像は、生徒に、順次パソコンにキャプチャさせ、 デジタルファイル化させた。さらにその中から必要なカットを取り出し、 ストーリーに合う様に時系列に並べさせた。 この作品は芸術でもエンターティメントでもなく英会話の教材であるので、 生徒には必要以上のエフェクトはかけないことを心がける様に指導した。 編集するためのソフトウェアは、Adobe Premiereを使用し、 適宜、生徒に操作法やコツを指導し、作業をさせた。 台詞の字幕を、出演者が話している速度に合わせ、見る者が読みやすい文字の大きさで、 一度に読み終えることの出来るセンテンスの長さで画面に表示させてゆく、という作業が、 生徒にとっては難しかった様である。
後日、生徒が勝手にNG集を作っていることを知ったが、 なかなか楽しく、良く出来ているために、これも使うことにした。 一通りの基本的な操作法しか指導しなかったのだが、 生徒自らがソフトウェアを研究し、愉快なNG集を作り上げたことで、 「生徒は、明確な目的が有れば自ら楽しんでソフトウェアの操作法を習得する」 ということを、改めて感じた。

VI テキストブックの作成
Vのビデオ編集作業と平行して、 教材としてメディアに付属するテキストブック作りを行った。
ビデオのシーンの構成に合わせながら、IIで作成した台本を元に、各シーンの台本を、 綴りをチェックしながらワープロソフトで入力し、適宜、解説などを加えていった。

VII 仕上げ
完成したシーンごとのビデオはMPEG2に変換し、 DVDコンテンツ作成ソフトを使ってCD-Rに書き込んだ。 当初の予定では、最後にDVDメディアに書き込む予定であったが、 全コンテンツのサイズが約600MByteであったこと、 DVDメディアは規格が多く プレーヤーによって再生出来たり出来なかったりすることが多いが、 出来るだけ多くのパソコンで手軽に使ってもらいたいこと、 出来るなら制作費を安価にしたいこと、などから、CD-Rメディアに書き込むことにした。つまり、このビデオ教材はメディアがCD-Rであるため、CD-Rが再生出来るパソコンであれば、DVD再生ソフトウェアを使って利用することが可能である。 CD-RのラベルやCDケースのジャケットもグラフィックソフトを使い 生徒にデザインさせた。 最後は、CD-Rに書き込む者、CD-Rラベルやジャケットを印刷する者、 などに生徒を手分けして作業を行った。

感想
1年間に渡って、 シーン作りに始まり、台本作り、リハーサル、本番、そして編集、仕上げ、 という一連の作業を通してビジネス英会話のビデオ教材を制作したことは、 生徒にとって、「外国人とのビジネスコミュニケーション」を考える上で、 とても良い経験になったのではないか、と思う。 外国人と英語で会話をする、というと、 正確な発音で、正確な文法で、と考えて緊張し、つい消極的になってしまいがちであるが、 英会話学習においては、先ずコミュニケーションすることから始め、 そのコミュニケーションの過程の中で、 発音や文法を意識していくのも良いのではないだろうか。
また、『ビジネス基礎』とは少しずれるが、 デジタルビデオカメラやパソコンなどのハードウェアや、ビデオ編集やワープロ、 グラフィックなどのソフトウェアを、 「外国人とのコミュニケーションを考える」という明確な目的を達成する過程の中で、 ツールとして活用出来たことは、情報デザイン教育やICT教育の上でも、 効果があったのではないか、と、考えている。
さらに、商業科の教員、英語科の教員、ALT、情報処理の助手、と、 それぞれに得意分野を持つ教員が教科や分野を越えた連携を取ることで、 この様な授業も可能なのだ、ということも、改めて感じた。

( '05/08/04 原文発表  ’05/08/10 記す)


この後、第3章以降では、 実際にこの教材ビデオを使用した授業の詳細や、 商業科の教員とALTとの、週1回の放課後の自主勉強会や懇親会(飲み会ですね)のこと、 校内で行った様々な関連行事、生徒の評価について、などの話になります。

私的には、このビデオ教材は、 これを生徒が作成したという意味は大きかったと考えていますし、 また、本文の最後にも書かれていますが、 誰でも、やろうと思えばこんな教材が作れるのだ、という一例になれれば、とも、 感じています。

このソフトを教材として捉えた場合は、 この後「英語実務」へとつながる「ビジネス基礎」の 「外国人とのコミュニケーション」分野の授業の導入部分として、 生徒や商業科の先生の英語への心理的な壁を崩すことが出来れば、 と思っています。
このビデオは授業への導入部分で、これが授業の全てではありません。


多くの先生方や生徒達と一緒に、 この一連のプロジェクトに取り組めたことを、とても感謝しています。




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