学校と情報教育に関する幾つかの想い Part.7
「情報デザイン」ということ

登録日 03/12/12   更新日 03/12/12

目次

以下の文章は、 2003年12月6日に行われた金沢学院大学主催「第1回情報デザインシンポジウム」において、 私の別人格が勤務校で行っている「商業デザイン実習」の授業の取り組みについての事例発表依頼を受け、 使用した予稿の細部を一部書き直したものです。要旨は全く同じです。 文章の前半は勤務校の情報教育の状況、後半がメインです。
ちなみに、実際の発表内容は、前半が勤務校の概要と情報教育のカリキュラム状況、 後半が、「商業デザイン実習」の授業の取り組みと生徒作品の提示でした。 この文章の内容は、シンポジウムの最後に行われた パネルディスカッションでの私の別人格の発言内容に近いです(一部、含まれています)。


(2003年12月6日のつもりで読んで下さい)

1.本校の概略

本校は、(-中略-) 校内には授業としてパソコンが利用出来る実習室が大小あわせて6部屋あり、 200台以上のパソコンが、商業科目は勿論、普通教科の授業においても活用されている。 これらのパソコンは全て校内LANによって1つに結ばれ、さらにインターネットに接続されている。 生徒は、校内で3年間通して利用出来る1つのアカウントを与えられ、 校内の授業用のパソコンからならばどの実習室のどのパソコンからでも自分のアカウントで 校内LANにログインし、インターネットや自分専用のネットワークドライブを 利用することが出来る様になっている。

2.本校の情報教育

本校では、今年平成15年度入学者から実施される教科「情報」関係の科目としては、 1年次に、普通教科「情報A」の代替となる「情報処理」があり、 主に、校内LANを利用するにあたってのガイダンスや基本的な知識、 表計算ソフトの実習、などが行われている。 2、3年次には、選択科目として、ネットワーク技術やマルチメディア表現、システム開発など、 より高度な実習を行う専門教科「情報」の授業が行われることになっている。 また、将来のビジネスを担う職業人の育成を目指す商業高校ということで、 表計算ソフトやワープロソフト、データベースソフト、画像処理ソフト、 或いはプログラミングなど、商業科の科目も、既に2、3年次に多く開講している。 商業科のデザイン系の科目としては、 パソコンは使わずに商業デザインの基礎基本を学ぶ「商業デザイン」や 実際にパソコンを使って作品を制作する「商業デザイン実習」などがある。 「商業デザイン実習」は、2年次に「商業デザイン」を受講していることが前提となっており、 商業科の教師と美術の教師がペアとなり、 主にIllustratorやPhotoshopを使い、 旅行会社を想定したロゴやキャラクタのデザインや、 観光パンフレットやポスターの作成などを行っている。 また、3年次の「課題研究」においては、 生徒の興味と関心によって、ビデオCMの作成や、 地域の商店街との交流による商店のチラシやレストランのメニューの作成など、 様々な取り組みがなされている。 部活動においても、オーサリングソフトを活用した 地元の紹介CDや地域の施設の紹介CD、学校紹介CDなどの制作をはじめとして、 幾つかの商業部がコンピュータでの実習活動を行っている。

3.「情報デザイン」ということ

「情報デザイン」の目的は、「情報で」デザインすることではなく、 「情報を」デザインすることである。 自分が持っている情報や自分が表現したいメッセージを、 場合に応じて、必要な部分を選択し、不必要な部分は切り捨て、 より正しく的確に、より判り易く相手に伝え、或いは表現する事が出来るか、 ということが「情報デザイン」であり、 それはそのままコミュニケーションにもつながるものであると考えている。 「情報デザイン」というと、 「コンピュータを使ってグラフィックスのデザイン」というイメージになりがちであるが、 コンピュータを使うか否かは実は関係が無い。 初めて入ったセルフサービスの店で、客が迷わずに注文が出来、 サービスを受ける事が出来る様に仕向けるのも「情報デザイン」であり、 もしそこで迷うなら、その店は客に対して情報がデザインされていない、ということになる。 しかし、デザインするための「道具」は何でも良いのだけれど、 IT機器を活用すれば、より多くの情報をより多くの人により判り易く高度で豊かな表現でデザイン出来る、 ということでないかと思う。
これまで商業高校の特色の一つとも言えたパソコンによる実習授業であるが、 平成15年度からの教科「情報」の導入により普通高校でも行われるようになり、 その差別化が難しくなって来ている。 しかし、同じパソコンの実習の授業であっても、 商業高校の情報教育だからこそ出来ることもある筈だ、と考えている。 高校においてのパソコンの実習授業では、 ともすると、特定のソフトウェアの操作方法や機能の習得に終始することになりやすく、 評価もそれに従うことに陥りやすい。 勿論、ソフトウェアの概念や基本的な操作方法、機能を習得すること自体は とても大切なことではあるが、 それだけでは足りない。 ハードウェア、ソフトウェアの機能は年毎に進歩しており、 数年前まではプロにしか使えなかったテクニックが今では誰にでも簡単に使える様になってしまう。 以前には「へぇ~、凄い」と言われたことが、直ぐに「あたりまえ」になってしまうのである。 また、例えば、IllustratorやPhotoShop などを使った観光パンフレットの作成を授業で行った場合、 ソフトウェアの機能を満載した作品が出来上がることが有るが、 そのパンフレットを実際に見る側の者にとっては 「この部分ではこんな凄い機能が使われている」ということは殆ど無意味であり、 自分が今知りたいこと、感じたいことが伝わって来るか、 つまり、紹介されている街がどんなに素敵な街なのか、というメッセージが伝わり、 行ってみたい、という気にさせられるか、ということが最も重要になる。 WebPage作成の場合では、 無意味な機能が満載されているために閲覧するのに時間がかかり、 或いはブラウザの違いによって正しく表示されずに、 閲覧者が苛々して他のサイトへいってしまう、ということもある。 「情報デザイン」が優れている作品ほどソフトウェア自体の機能を意識的に感じさせずに メッセージを受け取ることが出来る様に感じているが、 その作品に大したテクニックが使われていない訳では決してない。 このことにはなかなか気付きにくく、 ともすれば、内容よりも作品自体の派手なテクニカルな部分に目が行ってしまいがちになる。 同様なことは、PowerPointなどによるプレゼンテーションや オーサリングソフトを駆使したマルチメディア作品などの場合にも言える事であると考えている。

4.まとめ

現代は情報化社会といわれている。 今では、日常生活の中で、誰もが情報を発信することが出来、 誰もが情報を受け取ることが出来る。 日々流れる膨大な情報の中で、これからは、あらゆる人があらゆる場面において、 情報の整理整頓、情報のシェイプアップである「情報デザイン」が重要になってくるのではないか、 という気がしている。 そして、ハードウェアやソフトウェア、メディアなどの「道具の活用」と、 情報を過不足なく判り易く相手に伝えるための「情報デザイン」、 この2つが両輪となってはじめて、この情報化社会の中でお互いに伝え合い、 コミュニケーションするための「情報コミュニケーション」がなされるのだと考えている。 これからのビジネスにおいても、如何に自分を、自分の企画を、自社の製品を、 過不足なく的確に判り易く相手にメッセージとして伝える事が出来るか、 ということが大事になってくると感じており、 これからの商業高校にとっての情報教育は、これが重要になってくるのではないか、と、考えている。

( '03/12/06 原文発表  ’03/12/12 記す )




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