学校と情報教育に関する幾つかの想い Part.5
「I」と「T」の狭間で

登録日 02/11/25   更新日 02/11/25

目次

このタイトルは、 2001年3月8日に行われた金沢大学教育学部附属教育実践総合センター主催「第8回総合的学習/情報教育セミナー」で、 私の別人格が発表に使ったものですが、 割と気に入っているので、また、使います。
以下は、その時の予稿の細部を一部書き直したものですが、内容は全く同じです。
「I」に重点を置いた文章になっていますが、 「I」と「T」の狭間に「C」が入ったICTが主題です。

なお、ここでいう「T」は、一般的なイメージでいうところの、 コンピュータやインターネットなどの「技術」という意味で使われています。 念のため。


(2001年3月8日のつもりで読んで下さい)

勤務校では、 3年次に「課題研究」という授業を行なっています。
これは、興味関心の有るテーマを生徒自身が選び、指導教諭のもとで研究するというもので、 3学期には、各学校ごとに、生徒自身がPowerPointなどを利用して自分の研究成果を発表する校内発表会や、 さらに、各学校から選ばれたものを発表する「県課題研究生徒発表会」が開かれています(全国大会も有ります)。 研究のテーマは、普段の授業で行なっている内容を発展させたものとして、 学校のこと、地域のこと、時事問題、より高度なマルチメディア、など、多岐に渡っています。 勤務校では、週2単位で、2時限連続の授業でこれを行なっています。
昨年度(注:平成11年度)の事になりますが、 私は、この課題研究の授業で、「デジタルビデオCMの作成」というものを行ないました。 これは、生徒を3~4人のグループに分け、自分でテーマやストーリーを決め、30秒のCM作品を完成させなさい、 というものです。 デジタルビデオCM作成上の機械操作の技術的な過程は、大雑把には、

  • (a).デジタルビデオカメラで必要なシーンを撮影する。
  • (b).IEEE1394インタフェイスでパソコンに取り込む。
  • (c).デジタルビデオ編集ソフトで、映像を編集する。
  • (d).BGMを用意、ナレーションを録音し、やはりデジタルビデオ編集ソフトで、映像にかぶせていく。
  • (e).ムービー化する。
  • という事になります。 学校のパソコン設備が割と古く処理速度が遅いことと、 予定より倍の人数の希望者が集まり、機材が足りなくなったこと、 学校行事などで課題研究の授業が無くなる事が少なからず有ったこと、 撮影時の気象条件、などで、これだけの作業だけでもかなりの時間がかかってしまいましたが、 それでも、1つの班でみれば、(b)~(e)に関しては16時間程度でしょう。 最近のハードウェア、ソフトウェアはより高機能になり、 これらの作業がスピーディに出来る様になっていますから、実際には、もっと短い時間で可能であると思われます。
    では、何故、1年間も必要だったのか、といいますと、実は、上記の作業の前にさせている作業が有るからです。 その作業とは、
  • (1).CMのテーマを決める。
  • (2).ストーリーを決める。
  • (3).効果的な映像の技法。アングル、場面転換、などの研究。
  • (4).細かな絵コンテやせりふ、ナレーションを決める。
  • です。
    私は、これらのことに、かなりの時間を使いました。 上記の(a)~(e)は、 「デジタルビデオCMは(機械操作の技術において)どの様にして作成されるのか」ということを知るには大切なことであり、 勿論行なわなければならないことですが、 それは、最近さかんに使われている言葉である「IT」でいえば、「T」の部分であり、 それだけではなく、「I」の部分、自分を見つめ直し、自分が伝えたい、表現したい情報を創造し、組み上げる部分も、 より大切なことであるという想いが有ったのです。

    例えば、課題研究では、WebPageの作成、ということも、よく行なわれます。 エディタでHTMLを書いて、或いは、WebPage作成ツールを使って、 様々な画像や映像、音声を取り込んで、と、作成する手段は、色々と有ります。 これは、「T」の分野です。 そして、そのWebPageは誰を目的として作られるのか、 その内容はどの様に取材するのか、その人達にとって見易く使い易いか、 特に、自分の伝えたいことが正確に相手に伝わっているのか、は、「I」の分野です。 阪神大震災の時、音声の電話網が破綻する中、 パケット交換方式であるインターネットで情報がいちはやく全世界に流されました。 重要な情報はテキストだけで送信され、 人名リストは、漢字に対応していないパソコンを使用している外国在住の人にも理解出来るように画像ファイルとして、 しかし出来るだけトラフィックを押さえるために、 GIF形式で送信されました。 特定の言語、特定のブラウザ、特定のバージョンに依存することなく、 多くの人にきちんと表示され、見てもらえ、正確に情報が伝わる、ということ、 これらのことは、「I」と「T」が融合した「IT」の一つの形であると思っています。 これからはITの時代と言われていますが、 実際は、どちらかといえば「T」の能力が非常に強調されている様な気がしています。
    この様な時代の中で、 ただ単に派手な技術をてんこ盛りにし「どうです、凄いでしょう!」という様な、「T」に振り回されること無く、 自分を見つめ直し、創造、表現し、相手に情報を的確に伝えることが出来る能力、 「I」の能力を育てることが、これからの情報教育について非常に大切になってくるのではないかと考えています。

    ( '01/03/08 原文発表  ’02/11/25 記す )


    おまけ

    この時に作成したCM作品の一部が、 ブランド名「EIZO」で有名な某メジャーディスプレイメーカの学校向け販促CD-ROM、 「Media Director's Video Collection Vol.1」 に収録されています。 ただし、作成過程の資料などは収録されていないので、 完成作品だけ見ていても「...」かもしれません。




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