学校と情報教育に関する幾つかの想い Part.17
継続する国際交流プロジェクトを支えるネットワーク

登録日 13/07/07   更新日 13/07/07

目次

以下は、 2013年3月24日に行われた日本情報科教育学会近畿北陸支部研究会で講演させていただいた際の 資料を、一部修正、加筆したものです。


概要

World Youth Meeting(以下、WYM) は、 1999年より毎年日本で行われている、 日本全国の中、高、大学生と、アジアを中心とした世界各国の中、高、大学生との、 インターネットやIT機器を活用した国際交流のプロジェクトであり、 生徒による英語プレゼンテーションを中心とした国際会議形式で開催される。 毎年春頃、日本側参加者と外国側参加者とで複数の混合チーム(ICPs: International Collaborative Projects)が組まれ、 プレゼンテーションのメインテーマが決められる。 その後、インターネットのメーリングリストや掲示板、チャット、テレビ会議システムなどを活用しながら 参加者がコミュニケーション、メインテーマに沿った自分達のテーマを決め、 議論しあいながらプレゼンテーションの準備をする。7 月下旬には外国からの参加者が日本に集合、ホスト校各地でのホームステイ、交流などとともに最終準備などをし、 8月初旬に会場に集合し英語でプレゼンテーションや交流行事を行い、 その後、秋にかけて、お互いにリフレクションする。 参加する生徒にとっては、国際交流によって、日本と外国(特にアジア各国)との関係を体感するとともに、 英語やインターネットツール、IT機器などの活用によるコミュニケーション能力、 問題解決能力の育成につながる、とても有意義なプロジェクトである。 Asian Student Exchange Program(以下、ASEP)は、2000年より毎年台湾で行われており、 初期は台湾の先生方で構成されている「先進的な英語活用ネットワークプロジェクト」 (AJET:Advanced Joint English Telecommunication Project)を中心に運営された。 ASEPも、毎年秋頃から、メインテーマとカテゴリを決め、 そのカテゴリごとに台湾側参加者と外国側参加者とでICPsを作り、 インターネットのメーリングリストや掲示板、チャット、テレビ会議システムなどを活用しながら交流、 プレゼンテーションの準備をする。 12月下旬には外国からの参加者が台湾の高雄市に集合、ホスト校各地でのホームステイ、 交流行事とプレゼンの最終準備などをし、高雄市の会場で英語のプレゼンテーション、 その後、2月末まで、お互いにリフレクションする。 WYMとASEP の2つのプロジェクトによって、年間を通した国際交流がなされていると言える。

WYM/ASEPには、3つの大きな特徴が有る。 第1には、2カ国の学校の生徒が議論を深めて1つのプレゼンを作り、発表をする、という点である。 当然、その過程では、生徒間の言葉の壁や考え方の違い、など、幾つものコンフリクトが存在する。 生徒達は、各々の頭の中のイメージを言葉と形にして議論し、それらのコンフリクトを一つ一つ乗り越えていくことで、 客観的な視点の存在を体験し、お互いを理解し合い、同時に、自分を理解する。 そして、相手を、自分を、もっと理解したいと考える様になる。 其処にコミュニケーションの基本が有る様に感じる。 第2には、中学校、高校、大学が、相互に連携しているという点である。 同じ学校の中で後輩が先輩の行なうプレゼンテーションを目標にすることは、良く有ることだが、 WYM/ASEPでは、さらに、生徒が、中学を卒業して高校へ、高校を卒業して大学へ、さらに教員へ、 或いは、プレゼンターからスタッフへ、など、立場を変え、自分をレベルアップさせながら、継続して関わることが出来る。 より長いスパンでの、後輩から先輩への目標が非常に判り易い形でビジュアル化されている、という機会は、滅多にある事ではない。 ASEP2012では、プレゼンテーションの中で、台湾の高校と日本の大学とがコラボレーションしたものが有ったが、 作成過程では、同じ校種のコラボレーションとはまた違った議論が有ったに違いないと想像出来、 また、発表されたプレゼンテーションでは、高校生の元気さと大学生のロジカルな面の両方の良さが出ていて、私は非常に興味深く感じた。 其処には、単なる大学生と高校生のコラボレーションというだけではなく、 大学生自身が高校から継続してASEPを経験しているということも関係しているのかもしれない。 大きな特徴の第3には、自分達のプレゼンテーションが「相手に伝わる」ことを大切に考えている、という点である。 プレゼンテーションは、「相手に伝える」ことは注目されているが、 「相手が受け止める」こと、「相手に伝わる」ことに関しては、余り注目されていない様に思われる。 しかし私は、プレゼンテーションは、相手への一方的な伝達ではなく、

「コミュニケーション能力(伝わる量)」=「伝える力」×「受け止め、応える力」

という乗算であると考える。 WYM/ASEPでは、生徒の一人一人が、自分が伝えたいことを、伝える相手がどの様な人達なのかを意識させ、 そして同時に、自分達が「相手に伝える」プレゼンターであると同時に、 他チームのプレゼンテーションにおいては「相手を受け止める」オーディエンスでもあることを意識させている。 そのためには、生徒や学生、教師も含めて、自分達のチームだけではなく、 誰もがWYM/ASEP全体を意識し、全員のお互いの顔が見える様な演出をしなければならないと考える。 初期の頃は、全体の交流のための専用のウェブページや掲示板、メーリングリストなどを通して、 WYMやASEPの意義、他のコラボレーショングループの存在やその様子などを見せることをしていた。 最近では、フェイスブックをはじめとするネットワークツールが多くあらわれ、 コラボレーションする学校間のコミュニケーションは非常に便利になった反面、 手段が多様化して来ている面もある様に感じられる。 私がアーカイブを作成するに当たって、出来る限りインターネットの基本的な機能を使うことに拘っているのも、ここにある。

WYMやASEPが10年以上継続して行われているのは、 関わって来られた日本や台湾をはじめとする多くの方々の努力の集大成である。 最初は小さな組織から始まったWYMとASEPだが、回を重ねるごとに進化し、今も変化し続けている。 時には、学校の事情や運営上の都合などにより、不具合やトラブルが生じる場合も間々ある。 しかし、毎年WYM/ASEPが近づくと私の心がワクワクするのは、生徒や教員など全ての人達が、 WYM/ASEPが「順位を付ける」プレゼンテーション大会ではなく、 「自分達が全員で継続して創り上げる」プレゼンテーション大会であることを意識しているからに違いない。


5つの演出

1.プレゼンテーション
  ・時間 7~13分(年、人数によって変化するが予め決定)
     聴き疲れない。集中出来る。
  ・構成 フォーマットを活用(強制ではない)
     展開が判り易い、聴き易い
  ・英語レベル
     できるだけ、易しい単語や言い回しを使用する。中、高校生でも理解出来る。
  ・テーマに沿った意見交換の場。
     「英語の発表会」ではない。

2.オーディエンス
  ・ハンドブック
     各プレゼンの概要、メッセージ、交流ページ
  ・3つのキーワード
     予め発表校から提出。
     オーディエンスがハンドブックへ書き込む
  ・Edu-Click / PF-NOTE
     アンケート、感想、など
  ・Ustream
     外部からのコメント、など

3.場の共有
  ・アイスブレーキング
     自己紹介、ゲーム、クイズなど
  ・ワークショップ
     参加者をシャッフルしてグループ分け
     1つの作品を作成する。
  ・ミュージックセッション
     1つの曲を全員で。一体感

4.達成感
  ・アワード
     相対的な優劣の偏重ではなく、達成感、次への繋がり、を重視

5.ネットワークツール
  ・WebPage(文字・画像・ビデオ)
  ・掲示板、ブログ
  ・TV会議システム(CU-SeeMe, VChat, Skype, Google+)


サポートサイト

近年、様々なプレゼンテーション大会が各地で盛んに行われているが、 実際の会場では、発表する為のプレゼン、審査される為のプレゼンに陥ってしまう例が間々見られる。 その様な中で、ASEPやWYMはICTをコンセプトにし、参加者全体のコミュニケーションを重視している プロジェクトの一つである。 そして、その様なコミュニケーションを、距離を横糸に、時間を縦糸に支えているのが、 ネットワークである。

私は、ASEPやWYMでのコミュニケーションには四つの形態があると捉えている。 第一の形態は、一つの学校内の参加者による共通理解のコミュニケーション、 第二の形態は、異なる国、異なる学校の参加者によるプレゼンターとしての議論と調整のコミュニケーション、 第三の形態は、プレゼンターであり、他のプレゼンのオーディエンスであり、或いはスタッフである、 ASEPという1つのミーティングの出席者としてのコミュニケーション、 さらに第四の形態は、体験を次へと伝えていくコミュニケーションである。

前にも述べた様にASEPは幾つものICPの集合体であり、どうしても全体としての動きが見え難い面がある。 これを回避する為に、私は2001年にサポートサイトを開設し、 PerlやPHPによる色々なcgiや、Majordomo+MHonArcの他、 SNSとして、Pukiwiki Plus!(i18n)、OpenPNE(i18n)、Nucleus(i18n)、などを利用して運用して来たが、 この数年は、NetCommons2を中心にして運用し、情報の整理とシェア、アーカイブを行なっている。

WYMは今年で15回目を迎える。 継続するプロジェクトでは教師も生徒も引き継ぎが起き、或いは新しい学校が加わったりする。 Wikiやファイルサーバ、メーリングリストなどの情報は、そのまま記録として蓄積され、未来へシェアしていくことが出来る。 回を重ねる毎に進化し大きくなっていくWYMだが、 単なる学校対学校の国際交流の集合体ではなく、それらが有機的に連携した一つのコミュニティとして機能するために、 ネットワークツールを如何にデザインし活用するか、が、私の課題となっている。



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