以下は、
2007年8月19日に高崎市で行われた第19回日本商業学会全国大会で
「全国の開発商品の販売についての一考察 -模擬店舗経営の実践を通して-」
というタイトルで発表した原稿に、
ページに収まらなかった分と、当日の発表で発言した部分を加筆修正したものです。
私が本当に言いたいのは「おしながき」の2番目で、
1番目は、その為のネタです。
予めお断りしておくと、
これから述べる模擬店舗経営の取り組みの事例が「取り組み」としては成功例なのか、
失敗例なのか、は、私には判断出来ない。
こんな取り組みをしたらこうなった、という一例に過ぎない。
平成16年度まで私が勤務していた学校では、毎年10月末に2日間、
生徒の販売実習が行われている。
販売実習の手法や目的は全国の学校の校風や地域性などによって千差万別であるが、
この学校の場合は、市内の業者と提携し校内の会場で商品を展示し販売する、という形が基本で、
その目的は「経理」「ビジネスマナー」「仕事の責任とチームワーク」に重きを置いている。
しかし、新たな試みとして、
平成14年度から生徒(3年生10名前後)自らが全国の特産品を仕入れ販売するという
「全国特産品コーナー」を新設することになり、
コーナーの第1回から異動する平成16年度の第3回までの3年間を担当させていただいたので、
そのうち、最も印象に残っている平成16年度の例を中心に紹介し、
この3年間の取り組みを通して私が感じた
起業家教育に対する想いなどを書かせていただきたいと思う。
時系列の流れとしては、以下の通りである。
学校では、教員の指示で手取り足取り生徒を動かし成功例を出した教員が評価を受けるという事も有る様だが、 私は基本的には、 仕向ける事はするけれども、必要以上には口出しをせず、 生徒全員での検討を重視して決定させた。 生徒が選定した商品も、エリア間での種類の重複や、保健衛生上の問題、仕入れ数量の増減、 など以外は、生徒全体での検討に任せ、 生徒達に、 自分達が責任を持って「売れる」と選んだ商品を自分達で仕入れ、赤字にならない様に販売する、 という、自己による問題解決と目的達成の意識を持たせるようにした(放任した訳ではない)。 その結果、生徒にとっては売れると考えていた商品がなかなか売れず、 あの手この手で売った、という事が起きたりしたが、 その担当生徒にとっては、それも良い勉強になったとリフレクションに書いていた。 また別のエリアの生徒は、自分が選定した練り物の商品が最初はなかなか売れなかったが、 一所懸命に商品を説明し試食して貰ったら売れる様になり、 お客様に喜んで貰えてとても嬉しかった、 とリフレクションに書いていた。 価格の決定の難しさを挙げる生徒も多かった。 生徒は仕入れ値や送料が判っている為、 赤字にならない様に、そして価格が少しでも安くなる様に、 仕入れ段階から苦労していた様であった。 リフレクションの(3)についても、 自分自身が体験した事に基づいて様々な意見が書かれていた。
このコーナーでは、上記の様な生徒が選定した商品の他に、
定番商品として毎年コーナーで販売している商品や、
全国の商業高校で開発された商品などを仕入れ、販売した。
生徒達にとっては自分達が選定した商品ではなかったが、
定番商品では、例えば高知県の馬路村のゆずジュースでは、
1本の仕入れ値と売値、セット売りでの仕入れ値と売値、
セットの紙ケースの値段、それぞれの送料、
などを色々と計算しながら、バラ売りとセット売りを組み合わせ、
如何に安く仕入れ利益が出る様に販売するか、を繰り返しシミュレーションしていた。
また、同じく馬路村の「ゆず湯の素」には商品として30種類の袋の絵柄(湯のテーマ)が有り、
セット売りではその中から特定の6種類の絵柄を詰めて販売しているが、
生徒が、独自に「高校生向き」と「一般向き」の組み合わせを2通り選び、
馬路村農協にお願いしてその組み合わせで箱詰めをしていただき、
特別限定商品として販売するという様な企画も行った。
最初にも述べた通り、 これが模擬店舗経営の取り組みとして成功例なのか失敗例なのか、は、私には判らない。 最終的には僅かの黒字となり、生徒も私もホッとしたが、 しかし、それ以上に、この一連の「取り組み」によって生徒にとっては、 様々に、思うこと、考えること、そして得たことが多かった様に感じている。
私は、例えば上記の様な起業家精神教育の取り組みにおいては、以下の「4つのT」が 生徒に意識して考えさせたい重要なキィワードであると考えている。
現在、商業高校では、起業家精神教育などにおいて、 食品や玩具、デザイン、サービスや観光ツアーなど、有形無形の「商品」開発をはじめ、 チャレンジショップ、商標登録、会社の設立と運営、など、様々な手法がなされているが、 私は、そのプロセスのどれもが大切な意味が有る事と考えている。 しかし、これらの起業家精神教育の手法は、上記の「4つのT」を核にし、 その学校の校風や地域性に適した個性的な題材を肉付けすることにより、例えば、 小、中学校の調べ学習などではない、商業高校ならではの様々な取り組みが産まれるのではないか、 また、どれだけ見かけが派手でも地味でも、核となる「4つのT」がしっかりしていれば、 それは商業高校の生徒にとって意味のある取り組みになるのではないかと考えている。
さらに、以前から私は、商品は、作りっぱなし、売りっぱなしではなく、
仕入先、商品、販売者、お客様、各々の連携を意識して考える事が重要なのではないかと考えている。
例えば、全国各地の学校で開発されている商品は、
これまでに述べて来た様に、様々な目的や手法により、
明確なターゲットやコンセプトを持ち、生徒の想いを十二分に受けて完成されている。
しかし、時としてそれらの商品が「商業高校生が開発した商品」という
一括りのキャッチフレーズで販売されるのは、
開発者にとってはリフレクションが無く寂しいのではないだろうか。
敢えて「商業高校生が開発した商品」も1つのコンセプトだと言うことも出来るが、
既に全国の学校が数多の商品を世に送り出しており、
次期の新しい科目の候補にさえなっている商品開発自体が、
ずっと購入者に対するコンセプトになり続けるとは思えない。
開発者は開発した商品のターゲットやコンセプトに責任と誇りを持ち、
販売者はそれらに合った売り方をし、
また、その時のお客様の反応は、開発者に返し、
リフレクション、次へのステップの材料とすることが、
開発者にとっても商品にとっても幸せなのではないか、と、
これは自分への反省を含めて考えている。
( '07/08/19 原文 ’07/08/25修正 )